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大阪地方裁判所 平成11年(ヨ)10065号 決定 2000年1月07日

債権者

西村昭

債権者

木内創

債権者

垣田治彦

債権者

坂本美継

右債権者ら代理人弁護士

小田幸児

内海和男

右復代理人弁護士

位田浩

債務者

日本臓器製薬株式会社

右代表者代表取締役

小西甚右衛門

右債務者代理人弁護士

益田哲生

種村泰一

勝井良光

主文

一  債務者は債権者西村昭に対し、平成一一年六月九日から本案の判決言渡しに至るまで毎月二八日限り、六一万七七〇〇円を仮に支払え。

二  債務者は債権者木内創に対し、平成一一年六月一六日から本案の判決言渡しに至るまで毎月二八日限り、五七万二九六〇円を仮に支払え。

三  債務者は債権者垣田治彦に対し、平成一一年六月一八日から本案の判決言渡しに至るまで毎月二八日限り、四六万五一〇〇円を仮に支払え。

四  債務者は債権者坂本美継に対し、平成一一年六月一九日から本案の判決言渡しに至るまで毎月二八日限り、六五万四一二六円を仮に支払え。

五  債権者らのその余の申立てを却下する。

六  申立て費用は全部債務者の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  債権者ら

1  債権者らが債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  債務者は債権者西村昭に対し、平成一一年六月九日から本案の判決確定に至るまで毎月二八日限り、六一万七七〇〇円を仮に支払え。

3  債務者は債権者木内創に対し、平成一一年六月一六日から本案の判決確定に至るまで毎月二八日限り、五七万二九六〇円を仮に支払え。

4  債務者は債権者垣田治彦に対し、平成一一年六月一八日から本案の判決確定に至るまで毎月二八日限り、五五万三二〇〇円を仮に支払え。

5  債務者は債権者坂本美継に対し、平成一一年六月一九日から本案の判決確定に至るまで毎月二八日限り、六五万四一二六円を仮に支払え。

6  申立費用は債務者の負担とする。

との裁判を求める。

二  債務者

1  原告の申立てをいずれも却下する。

2  訴訟費用は債権者らの負担とする。

との裁判を求める。

第二事案の概要

一  争いがない事実及び明白な事実

1  当事者

(一) 債務者は、医薬品の輸入、製造及び販売を主な目的とする会社で、従業員は約六五〇名である。本社は大阪市にあり、札幌、仙台、東京、名古屋、京都、大阪、広島、高松及び福岡の九ヶ所に支店を置く。

(二) 債権者西村昭は、昭和四五年四月に債務者に雇用され、平成一〇年三月から医薬品営業本部営業統括部福岡支店長兼OTC部福岡OTC課長を命じられ、同年七月五日から業務担当課長を兼ね、同年一二月二八日から北九州分室長を兼ねた。その後、同債権者は平成一一年五月一九日に債務者管理本部付を命じられるまで、債務者福岡支店に勤務していた。

(三) 債権者木内創は、昭和四五年四月に債務者に雇用され、平成一〇年三月から医薬品営業本部営業統括部名古屋支店長を命じられた。

(四) 債権者垣田治彦は、昭和五四年四月に債務者会社に雇用され、平成九年八月から医薬品営業本部営業統括部仙台支店長を命じられた。その後、同債権者は平成一一年五月二一日に債務者管理本部付を命じられるまで、債務者仙台支店に勤務していた。

(五) 債権者坂本美継は、昭和四二年四月に債務者に雇用され、平成一〇年三月から医薬品営業本部営業統括部大阪支店長を命じられた。その後、債権者は、平成一一年六月九日に債務者管理本部付を命じられるまで、債務者大阪支店に勤務していた。

2  債権者らの管理職組合結成

(一) 債権者らは、平成一一年五月八日、債務者の管理職でもって構成される管現職組合ニチゾー会(以下、単に「管理職組合」という。)を結成し、債権者垣田治彦が会長に、債権者西村昭及び同坂本美継が副会長、山本秀雄が事務局長に就任し、同日、債務者に対して管理職組合結成の通知がされた(<証拠略>)。

(二) 管理職組合は、同年五月一六日付で会社に対して団体交渉を申し入れた。また、管理職組合は、団体交渉の開催及び処分の撤回等を求め、平成一一年六月一四日、同月一五日とストライキを通告して、本社前で座り込みを行った(<証拠略>)。

なお、管理職組合員らは、同月七日、管理職ユニオン・関西に加盟した。

3  懲戒解雇処分

債権者らは、次のとおり、債務者から懲戒解雇処分等を受けた。就業規則の関係条項は別紙<略>のとおりである。

(一) 債権者西村昭に対する処分

(1) 債務者は、債権者西村昭に対し、平成一一年五月一九日、医薬品営業本部営業統括部福岡支店長兼業務担当課長兼北九州分室長兼OTC部福岡OTC課長の職を解き、管理本部付を命じ、さらに、同月二五日、就業規則第八〇条に基づき、白宅での待機勤務を命じた(<証拠略>)。

(2) 債権者西村昭は、同年六月七日、債務者懲戒委員会に呼び出され、翌八日、懲戒解雇された(以下「本件西村解雇処分」という。)。解雇通知書には、同債権者が福岡支店長として会社秩序を保持すべき責任ある立場にありながら、社外の人間が「日本臓器の新生ビジョン」なるものを掲げて行った会社の組織と秩序に対する紊乱行為に加担したうえ、部下職員に対しても同調・加担を求めるなど、上記職責を担う社員としてあるまじき行動をとったとして、就業規則第七九条に該当するとし、、(ママ)併せて、債権者の右行動が就業規則第五三条の解職事由にも該当するとしている(<証拠略>)。

(二) 債権者木内創に対する処分

(1) 債務者は、債権者木内創を、平成一一年六月一五日付けで懲戒解雇処分にした(以下「本件木内解雇処分」という。)。同債権者に対する懲戒解雇は、「支店長職務を放棄し会社の経営方針に反対して会社前で座り込むという支店長にあるまじき行為」をしたことを理由としている。

(2) また、債務者は、同月一六日、債権者木内創が名古屋支店長として会社秩序を保持すべき責任ある立場にありながら、社外の人間が「日本臓器の新生ビジョン」なるものを掲げて行った会社の組織と秩序に対する紊乱行為に加担したうえ、部下職員に対しても同調・加担を求めるなど、上記職責を担う社員としてあるまじき行動をとり、これは就業規則第七九条に該当するので、これを懲戒解雇事由に付加すること、及び、右行為が就業規則第五三条にも該当するとの通知を行った(<証拠略>)。

(三) 債権者垣田治彦に対する処分

(1) 債務者は、債権者垣田治彦に対し、平成一一年五月二一日、医薬品営業本部営業統括部仙台支店長の職を解き、管理本部付を命じるとともに、就業規則第八〇条に基づき、自宅での待機勤務を命じた(<証拠略>)。

(2) 債務者は、債権者垣田治彦を、平成一一年六月一七日付けで、就業規則第七九条により懲戒解雇処分にした(以下「本件垣田解雇処分」という。)。

懲戒解雇事由は、債権者垣田治彦が仙台支店長として会社秩序を保持すべき責任ある立場にありながら、社外の人間が「日本臓器の新生ビジョン」なるものを掲げて行った会社の組織と秩序に対する紊乱行為に加担したうえ、部下職員に対しても同調・加担を求めるなど、上記職責を担う社員としてあるまじき行動をとり、これが就業規則第七九条に該当するというものである。債務者は、右懲戒解雇事由の通知の際、右行為が就業規則第五三条にも該当するとの通知を併せて行った(<証拠略>)。

(四) 債権者坂本美継に対する処分

(1) 債務者は、債権者坂本美継に対し、平成二年六月九日、医薬品営業本部営業統括部大阪支店長の職を解き、管理本部付を命じるとともに、自宅での待機勤務を命じた(<証拠略>)。

(2) 債務者会社は、債権者坂本美継を、平成二年六月一八日付けで懲戒解雇処分にした(以下「本件坂本解雇処分」という。)。

懲戒解雇事由は、債権者坂本美継が大阪支店長として会社秩序を保持すべき責任ある立場にありながら、社外の人間が「日本臓器の新生ビジョン」なるものを掲げて行った会社の組織と秩序に対する紊乱行為に加担したうえ、部下職員に対しても同調・加担を求めるなど、上記職責を担う社員としてあるまじき行動をとり、これが就業規則第七九条に該当するというものである。債務者は、右懲戒解雇事由の通知の際、右行為が就業規則第五三条にも該当するとの通知を併せて行った(<証拠略>)。

4  債権者らの本件各解雇処分前の賃金

(一) 債務者においては、平成九年四月から、有資格者年俸制が採用された。右年俸制によれば、年俸は、基本年俸と業績年俸とからなり、業績年俸は資格年俸と職務年俸によって構成される。資格年俸と職務年俸のいずれも標準額が定められている。各自の年俸は、基本給に一二を乗じた額と業績年俸標準額に評価を乗じた額の合計である。月額報酬は、年俸を一六・四で除した額であり、これが毎月二八日に支給されてきた。夏期(ママ)及び冬季(ママ)には、年俸から月額報酬一二ヶ月分を減じた額が分割して支給される。債権者らはいずれも有資格者である。

(二) 債権者西村昭の本件西村解雇処分前の賃金は、月額報酬五八万七七〇〇円に別居手当三万円を加算した六一万七七〇〇円である(<証拠略>)。

(三) 債権者木内創の本件木内解雇処分前の賃金は、月額五七万二九六〇円である。

(四) 債権者垣田治彦の本件垣田解雇処分前の月額報酬四六万五一〇〇円である(<証拠略>)。

(五) 債権者坂本美継の本件坂本解雇処分前の賃金は、月額六五万四一二六円である。

二  争点

1  本件各解雇処分の効力及び通常解雇の効力

2  保全の必要性

三  争点に対する主張

1  争点1について

(一) 債務者

(1) 小西俊一は、債務者の現社長小西甚右衛門の長男であり、かつて債務者の取締役であったが、その後取締役を退任し、新規事業を独自で始めたものの、失敗を重ねて負債を抱え、以後、顧問という名目で債務者から一定の給付がなされて生活の保障を受けていた者で、債務者の経営には一切関わりのない人物である。

ところが、同人は現社長を退陣に追い込んで自らが後任社長の地位に座るべく画策し、現社長が所有する株式について単なる名儀(ママ)人となっているにすぎないにもかかわらず、あたかも自らが債務者の「多数株主」であるかのごとく偽ったうえ、「日本臓器の新生ビジョン(以下、単に「新生ビジヨン」という。)」なるものを掲げ、「日本臓器製薬株式会社の老社長小西甚右衛門と中国担当部長の羅民詔とは、仕事の関係を越えた愛人関係にあり、・・・羅民詔の業務とは全く関係のない社内会議や社内外の会合にまで頻繁に同行同席を繰り返している。」「全国営業所訪問などあらゆる機会を捕らえては同行するなど、社内での公私混同が激しく、家族の目を盗みながら会社の費用で逢引きを重ねている。」「老社長はAIS事件以来、ひたすら社内の権力保持に務(ママ)め、仕事は何もせず、羅民詔との逢瀬と彼女の関係する中国事業にのみ執念を燃やしている」「経営判断能力を失った社長、営業本部を瓦解させた菅野専務、社長の言うことしか聞かない藤井専務、山根取締役らの茶坊主らが過去の栄光と自らの保身だけを願って画策している」等々、小西社長をはじめ債務者の現経営陣に対する誹謗、中傷を繰り返し、「組合社員諸君立ち上がれ!」「このような狂った組織から発令される不当な業務命令は全社員で無視し、・・・日本臓器の再生に向け立ち上がって下さい」と煽動するなど、債務者の組織と秩序に対する紊乱、破壊行為に狂奔しているところである。

(2) 債権者西村昭は債務者の福岡支店長、同木内創は名古屋支店長、同垣田治彦は仙台支店長、同坂本美継は大阪支店長の職にあり、いずれも各支店の最高責任者として、人事に関する事項(所管社員の異動、職務付与、人事考課、現地雇用事務員の採用等)、経費に関する事項(経費計画の立案、地区販売促進費の決裁、一般経費の決裁、支店長交際費の支出等)、対外交渉に関する事項、資産管理に関する事項その他について幅広い権限を有し、部長会において審議される年度計画書及び附帯資料等機密事項にも接する立場にあった。すなわち、債権者らは右各支店の最高責任者として会社の経営方針に則り、会社の組織、秩序を保持すべき重責を荷な(ママ)っていたものである。

ところが、債権者らは、小西社長をはじめ現経営陣を追い落としてその後に座ろうとする前記小西俊一の策動に加担し、以下のような行動をした。

(3) 債権者西村昭の行動

<1> 債権者西村昭に、平成一〇年一〇月ころから、福岡支店の穴見智和(チームリーダー)に対し「会社がすごいことになる」「(平成一一年)六月ころとんでもない事態になる」などと話し、その後に生じた事態をほのめかした。時期は詳らかではないが、小西俊一、債務者取締役竹浪静二、債権者西村昭、同坂本美継、同木内創らが会合を持ち、小西俊一の新生ビジョンに賛同する旨の署名を集めることになった。後日、債権者西村昭は、債権者垣田治彦、山本秀雄企画課長にも呼びかけて、右両名も署名に加わることになった。

<2> 債権者西村昭は、平成一一年一月、穴見智和に対し「人心を一新する」旨記載された「巻物形式の連判状(以下「連判状」という。)」への署名、押印を求め、同人はこれに従って右連判状に署名、押印した。その時点では、小西俊一の署名、押印に続いて債権者西村昭、同垣田治彦、山本秀雄ほか相当数の福岡支店従業員の署名、押印が既になされていた。

債権者西村昭は、穴見智和に対し「九州は全員署名させなければならない」旨述べ、部下従業員にも署名させるよう指示した。

<3> 債権者西村昭は、同年一月、福岡支店の高原幸三(チームリーダー)に対し、「六月の株主総会で俊一氏が社長になる」「株を持っている」「俊一氏が社長になった時に力を貸してくれ」などと述べて連判状への署名を求め、同人はこれに従って署名をした。また、同債権者は同人に対し、その部下にも署名させるように指示した。

<4> 同年一月一九日、債権者西村昭は、福岡支店熊本営業所長の山中雄平を福岡に呼び出し、連判状に署名、押印するよう求めた。同人はこれに応じて右連判状に署名、押印した。なお、その際、同債権者は同人に対し「時期が来るまで秘密にしておくように」指示した。また、山中雄平は、同債権者の掲示により、長浜邦泰(チームリーダー)、中間、樋之口に署名を求めた。

<5> 債権者西村昭は、同年一月二八日、福岡支店の清水稲生(チームリーダー)に対し、大分事務所において、「六月の株主総会で新社長に俊一さんがなる」「株の過半数は押さえている」「勝馬に乗るように」などと述べて連判状に署名、押印するように求め、同人はこれに従って右連判状に署名、押印した。なお、同債権者は同人に対し、その部下である岡本宏之にも署名、押印させるよう指示し、清水稲生は右指示に従って、岡本宏之に右連判状に署名させた。

<6> 債権者西村昭は、同年一月三〇日、穴見智和を伴って神戸三宮で名古屋支店の山田秀樹(チームリーダー)と会い、同人に対して「日本臓器は大変なことになっている」「その理由は、小西社長が羅民詔に騙されて翻弄されているからである」「羅民詔は中国で二人も人を殺している」「(ノイトロピンの)製造ノウハウを彼女が流している可能性があ(る)」「羅民詔は日本臓器と中国の両方から金を搾取している」「困ったことに、社長と羅民詔は愛人関係にあり、このままでは、二、三年のうちに日本臓器は潰れてしまうだろう。今ならまだ間に合う」などと述べ、羅民詔の中傷と小西社長の経営能力の欠如を吹き込んで、連判状への署名を求めた。また、同債権者は、山田秀樹に対し京都支店において署名、押印を集めるよう指示し、新生ビジョンと羅民詔の中傷文書を同人に手渡した(山田秀樹は、債権者西村昭が京都支店長時代の部下であり、平成一〇年九月末まで京都支店で勤務していた)。同社員は、その後、同債権者に言われるままに、京都支店の従業員に働きかけ、署名活動を展開した。なお、同債権者は山田秀樹に対し、名古屋支店では、すでに支店長である債権者木内創が同様に署名活動を展開している旨伝えた。

<7> 債権者西村昭は、同年二月、福岡支店の寺田政行に対し、連判状への署名、押印を求め、同社員も同債権者の求めに従い右署名、押印を行った。

<8> 同年三月二五日、債権者西村昭は高松支店長の西山史生を愛媛県三崎町のフェリー乗場に呼出し、同支店長に「各支店長は支店の皆に新生ビジョンについて説明し同意を求めているから君も頼む」と述べ、関係書類を同支店長に手渡して右署名運動への参加、協力方を要請した。また、同債権者は、同年四月一日、合歓の郷で行われた営業研修の際にも、同支店長に対し、右参加、協力方を重ねて要請した。同支店長は、自らは連判状に署名、押印したが、部下従業員にこれを強いるようなことはしなかった。

<9> 債権者西村昭は、同年四月、穴見智和に対し「組合を巻き込む必要があるので霧島(日本臓器製薬労働組合執行委員長)を説得せよ」と指示した(ただし、穴見智和が応じなかったため同債権者は霧島剛執行委員長との接触は断念する。)。

(4) 債権者木内創

<1> 債権者木内創は、同年一月初旬、名古屋支店の宮下孔彰(チームリーダー)に対し、「日本臓器は非常に危機に瀕している。このままでは二、三年も持たない」「社長が羅民詔に誑かされており正常な判断ができなくなっている」「社長と羅本部長は愛人関係にあ(る)」「羅本部長は中国での利権を自分のものにして私腹を肥やすために画策を図った」などと述べて羅本部長の中傷と小西社長の経営能力の欠如を吹き込み、「近いうちに社長と羅本部長を倒すために行動を起こすのでその時には支店長の指示に従うように」と言い含めた。

<2> 債権者木内創は、同年二月初旬、名古屋支店の右宮下孔彰、江崎安彦(チームリーダー)、本谷和彦(課長)らをそれぞれ支店応接室に呼び、新生ビジョン及び羅本部長に対する誹謗、中傷の文書を見せ、小西社長の経営能力の喪失と会社の危機を述べたてて、連判状への署名を求めた。右各従業員は、同債権者の求めに応じて右連判状への署名、押印を行った。本谷和彦には同支店の最後の署名者であると述べて強引に署名を迫ったが、この時点で署名を行っていたのは、同支店では債権者木内創以下九名であった。

(5) 債権者垣田治彦

<1> 債権者垣田治彦は、同年二月、仙台支店の田口秀雄(チームリーダー)を盛岡駐在所に訪ね、新生ビジョンを示して署名、押印を求めた。同人は同債権者の求めに従い、連判状に署名、押印した。

<2> また、債権者垣田治彦は、同年二月、同支店の木田博暢(チームリーダー)を青森に訪ね、同様に署名、押印を求めた。同人は同債権者の求めに従い、連判状に署名、押印した。なお、同人の部下である高橋佳孝、高村範人も同様に署名を行っている。

<3> 債権者垣田治彦は、同年三月には、同支店の庄子秀男(チームリーダー)に対し、新生ビジョンを示して連判状への署名、押印を求め、同人は同債権者の求めに従って、右連判状に署名、押印した。なお、同人の部下である木村敏晴、佐藤浩、本間の各従業員も、同様に署名を行っている。

<4> 債権者垣田治彦は、同年四月には、同支店の土田和美(チームリーダー)を郡山事務所に訪ね、新生ビジョンを示して連判状への署名、押印を求めた。同人は同債権者の求めに従って右連判状に署名、押印した。なお、同人の部下である岸本巧、鈴木謙一も署名を行っている。

(6) 債権者坂本美継

<1> 債権者坂本美継は、同年四月、神戸営業所長和田雅紀に対し、新生ビジョンへの署名、押印を求め、同社員は同債権者の求めに従って右署名、押印を行った。なお、同債権者は、同人に対して部下にも署名、押印させるように指示し、同営業所の岡本、松村、岸本の各従業員も同様に署名、押印を行った。

<2> 同年四月二二日、債権者坂本美継は、大阪支店の松村眞二に対し、特段の説明をすることもないまま連判状への署名、押印を求め、同社員は同債権者の求めに従って右署名、押印を行った。なお、この時点で右連判状には、すでに同債権者、前記和田雅紀らの署名、押印がなされていた。

(7) 以上のとおり、債権者らは、意を通じて、小西社長をはじめとする現経営陣の失脚を図った小西俊一の策動に積極的に加担し、部下従業員に対して小西俊一を支持する旨の署名、押印を求めるなど中心的役割を果たしたものである。

同人らのかかる行動は、債務者の組織、秩序を紊乱するもので、到底看過できないものであり、正常な業務執行が阻害される状況に至ったものである。そこで、債務者としては、同人らの支店長の職を解いて管理本部付としたうえ、事実関係を調査し、処分が決定するまでの間、就業規則第八〇条にもとづき自宅待機を命じた。しかして、調査の結果、債権者らについて右各事実が判明したため、就業規則第七九条三号、同一五号に基づき本件各解雇処分に付したものである。同人らが各支店の最高責任者である支店長として自ら会社の組織、秩序を保持すべき立場にあったにもかかわらず、右のような行動に出たことを考えれば、やむを得ざる措置といわなければならない。

(8) また、少なくとも、各支店の最高責任者である支店長として右のような重責をになっていたにもかかわらず、前記のごとき債務者の組織、秩序を紊乱する行動に出た者については、到底雇用契約を継続し難いものといわなければならず、就業規則第五三条四号の解雇事由(通常解雇)に該るものである。このことは、各人に対する解雇通知書の中でも述べたところであり、これにより予備的に右解雇の意思表示がなされているものというべきであるが、右通知書では懲戒解雇の意思表示のみがなされていると解される余地もあるので、念のため本書面により、右就業規則第五三条四号に基づき予備的に解雇の意思表示をなす。

(9) 債務者の就業規則第七四条では「社員を懲戒する場合必要に応じ懲戒委員会を設けて審査を行う」とあるのみで必ずしも懲戒委員会の審査が必要条件とされていないが、本件の場合、債権者西村昭については平成一一年六月七日に、債権者木内創については同月一四日に、債権者垣田治彦については同月一六日に、債権者坂田(ママ)美継については同月一七日に、それぞれ懲戒委員会が開催された。そして、、(ママ)懲戒解雇処分が相当である旨の決議がなされている。債権者木内創及び同垣田治彦については、懲戒委員会に出席していないが、必ずしも、懲戒委員会の場で本人の弁明を聴取することが義務づけられているわけではない。

(10) 債権者らは、本件各処分が不当労働行為に該ると主張するが、債務者が債権者らの前記行動を察知したのは四月下旬のことであり、以後、四月三〇日に本社において債権者西村昭、同垣田治彦両名に対して事情聴取を行い(この事情聴取には小西俊一が同行し、強引に同席して妨害を行った)、その他関係者から事実関係の聴取を始めた。しかるところ、五月一〇日になって、突然、管理職組合を結成した旨の通知が寄せられ、債権者垣田治彦が会長に、同西村昭が副会長に就任した旨の通知がなされたものである。本件各処分が不当労働行為などに該るものでないことは右時系列からしても明らかなところである。

(二) 債権者ら

本件各懲戒解雇処分は、不当労働行為に該当するものであって、懲戒権、解雇権の濫用に当たり無効である。

(1) 本件解雇に至る経緯

債務者は、外国から輸入して販売した非加熱高濃縮血液製剤により多数の血友病患者らにHIV感染・エイズ罹患という甚大な被害を与え、その結果、これら被害者に対し五〇億円にのぼる多額の賠償金を支払うこととなった。

債務者は、現社長小西甚右衛門のワンマン会社であり、同人の意向ですべてが決まるような体制にあり、同人と対等な立場に立って、労働条件について交渉しうる環境は全くなかった。

債務者では、ここ数年、売上高の急激な低下に対応するためと称し、人件費を下げるために、管理職に対し年俸制を導入し、人事制度の改正などをからめて、管理職に対する一方的な給料及び賞与の引下げをしてきた。

平成一〇年の夏・冬の賞与について、いずれも、管理職は全員一律三割をカットされた。

このような債務者において、債権者ら管理職は平成一〇年暮れころから債務者における労働条件の回復等のための方策を思案し、平成一一年二月ころから管理職のための労働組合の結成を検討し始めた。

債権者らは、平成一一年五月八日、債務者における労働条件の改善と労働者としての権利を確保し、製薬会社の管理職として職責を完遂し、法と社会的ルールに従った会社運営の透明化を図り、企業の発展に貢献することを目指して、管理職組合を結成した。管理職組合は、同日付けで、管理職組合結成を債務者に通知した。

(2) 債務者は、債権者らの管理職組合結成に対し、次のような不当労働行為を行った。

<1> 債務者は、平成一一年五月一二日、管理職組合役員の債権者垣田治彦らに対し管理職組合結成を認めない旨通告した。

<2> 債務者は、同月一二日付で、管理職組合が小西俊一と結託して会社組織の破壊を企み、不正な動機に基づいて結成した管理職組合であるとする誹謗中傷文書(<証拠略>)を、債務者社員全員に通知した。

<3> 債務者は、同月一三日、債権者垣田治彦が前記結成通告した際に、単なる連絡先として同人個人の住所を記載していたところ、「会社の借上社宅を会社とは関係のない事務所所在地として使用」したと因縁をつけ、同人の居宅である借上社宅の賃貸借契約を一方的に解除した。

<4> 債務者代表者小西甚右衛門は、同月一八日、管理職組合を誹謗中傷する署名入りの文書(<証拠略>)を全管理職の自宅に郵送した。

<5> 債務者は、同月一八日ころから、管理職及び営業チームリーダーに対し、山根和之取締役、井上勝司取締役、菅野廸郎専務取締役らを介して、管理職組合に対する誹謗中傷を電話あるいは面談にて行い、管理職組合潰しを行っている。

<6> 債権者西村昭は、同月一八日、藤井専務取締役に本社会議室に呼ばれ、藤井専務らから「社長に対する裏切りだ」と脅しをかけられた。その際、藤井専務らは、小西俊一が出している文書はでたらめであるとして、管理職組合問題を「日本臓器の新生ビジョン」問題にすり替え、同債権者に対し降格処分を言い渡した。

<7> 管理職組合事務局長山本秀雄は、同月一八日、山根和之取締役に本社応接室に呼ばれ、同取締役から新生ビジョン賛同者イコール管理職組合と考えている旨告げられたうえ、「新生ビジョンの中にある羅民詔の件が全くでたらめである」などとして、頭ごなしに怒鳴りつけた。山本が、管理職組合と小西俊一とはまったく別である旨説明しても、これを受け付けず、また、「早く管理職組合を辞めるか解散するかしろ」と強要され、顛末書の提出を求められた。さらに、山本秀雄は、翌同月一九日、井上勝司取締役から就業時間中に突然、本社近くの喫茶店に呼び出され、前同様、管理職組合脱退を勧奨された。

<8> 管理職組合副会長坂本美継は、同月二一日、藤井専務取締役、山根和之取締役から本社会議室に呼ばれ、管理職組合と「日本臓器の新生ビジョン」を結びつけて脅しをかけられ、顛末書の提出を命じられた。

<9> 債権者垣田治彦は、同月二一日、藤井専務、山根和之取締役から本社会議室に呼ばれ、新生ビジョンに関連して調査が必要であるとして、同日付けで本社管理本部付の降格処分及び自宅待機処分を命じられた。同債権者の社内での組合活動を嫌悪し、会社に出社させないようにしたものである。

<10> 管理職組合幹事長山中雄平は、同月二二日、仕事(熊本臨床整形講演会)中に、井上勝司取締役が隠密で来たとして面談を受け、「管理職組合は認めることは出来ない。この管理職組合に参加している君の将来はない。」と脅迫された。

<11> 菅野廸郎専務取締役は、同月二二日、債権者垣田治彦の父親宅を訪れ、同債権者が管理職組合の会長に就任していることを告げて、降格、自宅待機処分にしたことを伝え、関係のない同債権者の父親まで巻き込んで管理職組合つぶしをはかろうとした。

<12> 藤井統典専務取締役管理本部長は、同月二七日、「管理職の皆様へ」なる通知を管理職宛に送付し、管理職組合が盗人であり、組織撹乱をしているかのごとく、管理職組合を誹謗中傷する文書を管理職の自宅へ郵送し、各事業所へも配布した。

(3) 管理職組合は、これらの不当労働行為に対して逐次抗議を続けるとともに、平成一一年六月一四日から団体交渉の開催及び処分の撤回等を求め、ストライキに立ち上がり、本社前で座り込みをおこなった。

また、管理職組合員らは、同月七日、管理職ユニオン・関西に加盟した。

(4) 債務者は、債権者ら管理職組合員が小西俊一の「日本臓器の新生ビジョン」について部下に記名や捺印を強要し賛同を求める行為をしており、これに対する処分を恐れて、管理職組合結成をはかり、管理職の代弁者のような言辞を弄して組織づくりを始め、管理職組合を隠れ蓑に利用しているなどと管理職組合の誹謗中傷を繰り返している。

しかし、管理職組合と小西俊一とは立場が異なる。

小西俊一は、現社長の長男で、債務者の株主兼顧問であるが、同人作成の新生ビジョンは、薬害エイズ事件を深く反省する立場から、現社長小西甚右衛門が掲げている「会社経営の基本政策」をより貫徹するために作成されたビジョンである。右新生ビジョンは、一番最初に、現社長に提出されたが、その後、債権者らを含む債務者の従業員にも配布された。

債権者らは、債務者の信用回復や管理職の労働条件の維持、職場の環境改善等を考えていた矢先、小西俊一顧問が現社長に提出した新生ビジョンを読み、その内容に共感したにすぎない。債務者の従業員である債権者らは、管理職組合を結成し、労働組合の立場で自らの労働条件の向上、労働環境の改善に向けた取り組みをしたいと考えていた。

(5) 本件各処分が不当労働行為に該当すること

<1> 債権者西村昭が、債務者の株主兼顧問である小西俊一が作成した新生ビジョンにが(ママ)賛同し、部下にもその閲読をすすめる等したことはある。それは新生ビジョンが債務者の基本理念に沿ったものであったからにほかならない。そのような行為が、言論の自由、表現の自由のある民主社会で懲戒処分の理由になるとはおよそ考えられない。債務者による降格、自宅待機処分とそれに続く懲戒解雇処分は、債権者らが管理職組合を結成したことを嫌悪し、債権者らを債務者から放逐するためになしたことは明らかである。

債権者木内創に対する懲戒解雇の理由は、正当な労働組合活動をしたことを理由とするもので、不当労働行為に当たることは明らかである。

さらに、債権者垣田治彦に対する借上社宅の契約解除、降格、自宅待機処分とそれに続く懲戒解雇処分も、管理職組合会長を狙いうちにした不当労働行為意思によるものである。

また、債務者は債権者ら管理職組合員のみならず、従業員らに対しても、管理職組合嫌悪の意思を表明し、組合結成に対し不当な支配介入をしてきていることからしても、本件懲戒解雇処分が不当労働行為であることは明らかである。

<2> 解雇理由・解雇手続の不存在

債務者は、債権者西村昭に対する解雇通知書について、就業規則第七九条を摘示するだけで、それが、同条何号に該当するか明示していない。本件各解雇処分の理由が同条に定める懲戒事由に該当しないため、これを明示できないものと思われる。また、就業規則第五三条の解職事由にも該当すると言いながら、これも何号に該当するのか明示していない。

また、債権者木内創に対する解雇通知書には就業規則のどの条項に該当するかということさえ、明示されていない。

これらの事実からも、本件各解雇処分が、債務者の就業規則上も認め難い不当な処分であることは明らかである。

さらに、債権者木内創及び同垣田治彦については、懲戒委員会が開催されていない。

<3> よって、債務者による本件各解雇処分は、懲戒権及び解雇権の濫用にあたり、無効である。

2  争点2(保全の必要性)について

(一) 債権者ら

(1) 債権者西村昭は、本件西村解雇処分前、月額六一万七七〇〇円の給与を得て、その給与によって、家族の生活を維持していたものである。

(2) 債権者木内創は、本件木内解雇処分前、月額五七万二九六〇円の給与を得て、その給与によって、家族の生活を維持していたものである。

(3) 債権者垣田治彦は、本件垣田解雇処分前、月額四六万五〇〇〇円の給与を得て、その給与によって、家族の生活を維持していた。しかし、同人の月々の支出は月収のみでは足りず、六月と一二月の賞与で補填していた。のみならず、同人は仙台の自宅は、債務者の借上社宅であったところから、家賃の相当部分を債務者が負担することによって生活を維持してきていた。右家賃は一二万五〇〇〇円であり、債権者垣田治彦は給料から月々三万六九〇〇円を天引きされ、差額の八万八一〇〇円は債務者が負担していた。すなわち、債権者垣田治彦が債務者の従業員たる地位を有していたことから、債務者が右八万八一〇〇円を住居手当として支給し、それによって債権者垣田治彦は生活を維持していたものである。ところが、債務者による本件垣田解雇処分の結果、債権者垣田治彦は右住居手当相当分をも別に捻出して生活を維持せざるを得なくなっている。よって、債権者垣田治彦は月額四六万五〇〇〇円の給与及び住居手当としての八万八一〇〇円の合計五五万三二〇〇円が、債権者垣田治彦が債務者の従業員たる地位にあったが故に失ったものである。

(4) 債権者坂本美継は、本件坂本解雇処分前、月額六五万四一二六円の給与を得ていた。

(5) 右債権者らが債務者からの収入を失えば、債権者ら一家の生活が困窮に陥ることは必至であり、保全の必要が存在することは明らかである。

(二) 債務者

債権者らの主張は争う。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

1  (証拠略)並びに審尋の全趣旨によれば、次のとおり一応認めることができる。

(一) 債務者は、外国から輸入して販売した非加熱高濃縮血液製剤により多数の血友病患者らにHIV感染・エイズ罹患という甚大な被害を与え、その結果、これら被害者に対し五〇億円にのぼる多額の賠償金を支払うこととなったほか、ここ数年来、売上高の低下のなかで、平成七年には、部長年俸制を、平成九年四月からは、部長職以外の管理職にも適用がある有資格者年俸制を実施し、平成一〇年度には、業績の著しい悪化を理由に、有資格者の賞与に該(ママ)る勤労配当は七〇パーセントを支給するとの措置を取ってきた。債権者らは、右告知が、夏期配当日の約一週間前に一方的になされたこと、業績悪化の原因が債権者らにあるかのようにいわれて賃金を減額されることに不満を持ち、債務者の将来に不安を持つと同時に、取引先にアピールできる新薬の開発がないことなど、その経営方針にも批判的になっていた。

(二) 小西俊一は、債務者の現代表取締役社長小西甚右衛門の長男であり、かつて債務者の取締役であり、営業本部長を務めたこともあったが、その後、取締役を退任し、顧問という立場にあり、実質的に債務者の経営には携わっていない。ただし、年一回の全従業員の研修会に出席したり、平成八年の衆議院議員選挙においては、自民党公認で兵庫四区から立候補し、小西甚右衛門の依頼もあって、債務者の従業員においてその選挙運動を支援したこともあった。しかし、小西俊一は、債務者から、中国における債務者の利権を手に入れようとする中国側関係者と共謀し、中国に輸出が計画されていた債務者製造の薬品ノイトロビ(ママ)ンの臨床試験を中断させるとともに、同年八月に開催予定の北京市中国児童センターにおける日中友好児童絵画交流展について中国文化部の認可を得ないまま放置させるなどして、これらを妨害し、中国担当本部長羅民詔の失脚と小西甚右衛門社長の名誉、信用の失墜を画策したと考えられるに至っている。

小西俊一は、平成一一年一月ころには、新生ビジョンの草案である再生ビジョンを作成し、次いで、同年二月一日ころ、新生ビジョン(<証拠略>)を策定し、その後、これを債権者西村昭や同垣田治彦などの管理職に送付し、また、同年三月六日には、債務者社長小西甚右衛門宛に、新生ビジョンを添付した申入書を送付し、また、同月七日には、小西甚右衛門に直接手渡し、さらに、同月八日、小西甚右衛門の次男で債務者代表取締役専務小西龍作に送付して、債務者の経営刷新を求めた。右新生ビジョンの内容は、小西甚右衛門が作成した経営の基本理念を踏まえ、これを発展させるとして、「会社経営の基本政策の貫徹」の項では、(1)HIV事件を深く反省し、形骸化した「安全性」第一の理念を再確立し、社外にも表明すること、(2)得意分野に経営資源を集中し、他社の追随を許さない「独創性」ある商品の開発を最優先すること、(3)堅実経営に止まらず、経営の透明化、ルールに基づいた経営を行うこと、(4)経営理念を血肉化し、基本政策を実践できる人材の養成とその活路を図り、社員の士気を高揚させること等と記載し、続けて、経営計画会議の創設などの経営計画の策定や組織改革案、人事改革案、経費の効率化計画案等を提案しているが、極めて建設的なもので、債務者やその代表者あるいは他人を誹謗中傷する文言はなく、債務者の経営陣の退陣を求めたり、これを直接批判する部分もない。

しかし、債務者がこの提言を無視したため、小西俊一は、同月一七日、債務者宛に申入書第二号を送付した。右申入書第二号は、新生ビジョンの本題を申し入れるとして、倫理なき社内の腐敗、危険な中国投資、新薬の出せない体質、売上の大幅ダウンを指摘し、債務者の経営陣に対する批判的立場を明らかにするとともに、関係資料として、「羅民詔の悪質な中傷と迫害による被害を受けた関係者名簿」などを添付し、また、「老社長と羅民詔」なる項を立てて、日本臓器製薬株式会社の老社長小西甚右衛門と中国担当本部長の羅民詔とは、仕事の関係を超えた愛人関係にあり、羅民詔の業務とは全く関係のない社内会議や社内外の会合にまで頻繁に同行同席を操(ママ)り返し、全国営業所訪問などあらゆる機会を捕らえては同行するなど、社内での公私混同が激しく、家族の目を盗みながら債務者の費用で逢引きを重ねている旨記載し、また、「老社長はAIDS事件以来、ひたすら社内の権力保持に努め、仕事は何もせず、羅民詔との逢瀬と彼女の関係する中国事案にのみ執念を燃やしている」などとも記載した。

債務者は、新生ビジョンについては、これが現社長の小西甚右衛門の掲げる会社経営の基本理念を発展、再構築するとの体裁をとり、一見すると極めて建設的な意見であるかのごとくうかがえるものの、小西俊一の真の意図は、中国担当本部長の羅民詔を悪者に仕立てあげて失脚させるとともに、小西社長をはじめ現経営陣を退陣に追い込み、自らがこれに取って代わることにあると判断した。

しかし、小西俊一が、株主に働きかけるなど、取締役会又は株主に対する多数派工作をした形跡はない。

(三) 債権者西村昭は、小西俊一が債務者の営業本部長であったころの部下であるが、同人が小西甚右衛門の長男であり、かつ債務者の顧問であり、平成八年の衆議院選挙において同人が立候補した際には、小西甚右衛門もこれを応援していたことから、小西俊一が債務者から忌み嫌われる存在であるとは考えていなかった。そして、平成一一年一月ころに、前記再生ビジョンを示されて、これが小西甚右衛門の掲げる会社経営の基本理念を発展、再構築する極めて建設的な意見であると理解し、前述のように、債務者の経営の現状に批判的であったこともあって、債務者を発展させるためには必要なこととこれに賛成し、その実現を期待した。その後、時期は不明であるが、小西俊一が、債務者取締役竹浪静二、債権者西村昭、同木内創などに、前記再生ビジョンについての意見を聞き、その賛成を得た。そして、その実現の一方法として、これに賛成する者の署名を集めることとした。その署名は、巻物形式の連判状になされ、冒頭に小西俊一が署名し、続けて債権者西村昭が署名している。

このようにして、署名運動が福岡支店において始まり、同支店のチームリーダー穴見智和は、平成一一年一月中旬ころ、上野整形外科のパーティの際に、債権者西村昭及び竹浪静二から話を聞いて連判状に署名、押印をした。また、そのころ、同支店のチームリーダー高原幸三も連判状に署名をした。

同年一月一九日には、福岡支店熊本営業所長山中雄平が、連判状に署名、押印し、チームリーダー長浜邦泰、中間、樋之口も山中雄平に勧められて署名、押印した。

同年一月二八日、福岡支店のチームリーダー清水稲生が、大分事務所において、連判状に署名、押印した。

債権者西村昭は、同年一月三〇日、穴見智和とともに、神戸三宮で名古屋支店のチームリーダー山田秀樹と会い、同人に対して連判状への署名を求めた。また、同債権者は、同人に対し京都支店において署名、捺印を集めるよう依頼し、同人において、京都支店の従業員に働きかけ、署名活動を展開した。

債権者西村昭は、同年二月、福岡支店の寺田政行に対し、連判状への署名、押印を求め、同人も同債権者の求めに従い、右連判状に署名、押印を行った。

債権者西村昭は、同年三月二五日、高松支店長西山史生を愛媛県三崎町のフェリー乗場に呼出し、同支店長に「各支店長は支店の皆に新生ビジョンについて説明し同意を求めているから君も頼む。」と述べ、関係書類を同支店長に手渡して右署名活動への参加、協力方を要請した。同支店長は、これに応じ、連判状に署名、押印した。

(四) 債権者木内創は、同年二月初旬、名古屋支店の宮下孔彰、江崎安彦、木谷和彦をそれぞれ支店応接室に呼び、新生ビジョンに対する賛同と連判状への署名を求め、同人らはこれに賛同して右連判状への署名、押印を行った。

(五) 債権者垣田治彦は、同年二月、仙台支店のチームリーダー田口秀雄を盛岡駐在所に訪ね、新生ビジョンを示して署名、押印を求めた。同社員は同債権者の求めに従い、連判状に署名、押印した。

また、債権者垣田治彦は、同年二月、同支店のチームリーダー木田博暢を青森に訪ね、署名、捺印を求めた。木田博暢は同債権者の求めに従い、連判状に署名、押印した。なお、同人の部下である高橋佳孝、高村範人も同様に署名を行っている。

債権者垣田治彦は、同年三月には、同支店のチームリーダー庄子秀男に対し、新生ビジョンを示して連判状への署名、押印を求め、同人は同債権者の求めに従って、右連判状に署名、押印した。なお、同人の部下である木村敏晴(同月上旬)、佐藤浩(同月三日、仙台支店会議室で)、本間(同年二月二四日、江刺市において)も、同様に署名を行っている。また、同支店の吉原浩史、畠山も、同様に署名した。

債権者垣田治彦は、同年四月には、同支店のチームリーダー土田和美を郡山事務所に訪ね、新生ビジョンを示して署名、押印を求めた。同人は同債権者の求めに従って署名、押印した。なお、同人の部下である岸本巧、鈴木謙一も署名を行っている。

(六) 債権者坂本美継は、同年四月ころ、新生ビジョンの送付を受けるなどして、これに賛同し、自らこれに署名、押印するとともに、同月二二日、大阪支店の松村眞二に対し、連判状への署名、押印を求め、同人は同債権者の求めに従って右署名、押印を行った。

(七) 同年四月二二日、取締役菅野廸郎のもとに、福岡支店、仙台支店、大阪支店等において各支店長が部下従業員から新生ビジョンに賛同する旨の署名を取り付けているとの情報が寄せられた。そこで、菅野廸郎は、同月二七日、これを債務者に報告するとともに、仙台支店の課長の田口に電話で確認したところ、同人は、債権者垣田治彦から新生ビジョンを示され署名を迫られたのでこれに応じた旨説明した。翌四月二八日、菅野廸郎は、債権者垣田治彦に電話で確認したところ、同人も従業員に署名を求めた事実を認めた。

そこで、債務者管理本部は、同月二八日、事情聴取を行うべく、債権者西村昭、同垣田治彦の両名に対し、四月三〇日に本社に出頭するように命じた。

債権者西村昭、同垣田治彦は、四月三〇日、小西俊一とともに出頭した。右債権者らは、新生ビジョンについて、小西俊一から説明させるつもりであり、同人が債務者の顧問であることもあって、その申出が拒否されるとは予想していなかったが、事情聴取を担当した取締役管理本部長藤井統典と取締役管理本部副本部長山根和之は、同人の説明を拒否し、険悪な雰囲気になった。右債権者らは、新生ビジョンについての説明を聞いて貰えなかったことから、態度を硬化させて、署名を取り付けたことを否定した。

債務者は、右署名活動を、小西俊一を中心とする会社転覆のクーデターであると位置づけ、山根和之において、同日、神戸営業所長和田雅紀にその旨告げ、陳述書を提出させた。

そして、債務者は、同年五月七日、債務者代表取締役社長小西甚右衛門の名で、管理職及びチームリーダー宛に、小西俊一名義でいろいろな中傷文書が送られ、かつ従業員の捺印まで求めている事実があるが、これは会社の組織行動とは一切関係のない全く個人的な無法な行為である旨の警告文書を配布した。

(八) 債権者らは、署名活動とは別に、管理職による労働組合の組織化を検討しており、同年五月八日、大阪グランドホテルにおいて、管理職組合結成の会合が開催された。出席者は、債権者西村昭、同坂本美継、同垣田治彦のほか高松支店長西山史生、熊本営業所長山中雄平、神戸営業所長和田雅紀、企画部課長山本秀雄、福岡支店営業課長川森寛治、高柳公一らであり、それ以外に竹浪静二取締役、小西俊一、横井弁護士らも同席した。議事進行は、司会を山本秀雄、議長を債権者西村昭が行い、結成宣言、規約、活動方針をそれぞれ議決し、会長に債権者垣田治彦を、副会長に債権者坂本美継、同西村昭を、事務局長に山本秀雄を選出し、小西俊一が来賓として挨拶した。

そして、管理職組合会長垣田治彦名義で、債務者に対し、管理職組合結成の通告書を送付し、これは、同月一〇日債務者に到達した。

(九) 債務者は、同月一二日、債権者垣田治彦に対し、調査中の事件の隠れ蓑として組合を結成したものであるから、管理職組合結成を認めない旨通告した。

そして、債務者は、同日、「社員の皆さんへ」と題し、「一部管理職が経営刷新の美名のもとに小西俊一と結託し、会社組織の破壊を企み、これに対し会社の調査が始まるや事実露呈を隠すために管理職組合を結成し、事実を隠蔽しようとしておりますが、全く常識外の行為としか言いようがありません。会社はこのような不正の動機に基づき結成される団体を認めるわけにはまいりませんので、その旨、団体首謀者各個人宛に通告しました。」等と記載した文書(<証拠略>)を、全員回覧文書として、従業員の部長以上、独立長、駐在員、組合宛に送付した。

債務者は、同月一三日、債権者垣田治彦が前記結成通告した際に、管理職組合の肩書に同債権者の借上社宅所在地を記載していたのを、「会社の借上社宅を会社とは関係のない事務所所在地として使用」したとして、同人の居宅である借上社宅の所有者との賃貸借契約を解除した。

債務者代表者小西甚右衛門は、同月一八日、管理職組合が隠れ蓑であり、債務者はこのような不純な動機に基づく団体を黙認することができない等と記載した文書(<証拠略>)を全管理職の自宅に郵送した。

山根和之は、同日、管理職組合事務局長山本秀雄を本社応接室に呼び、新生ビジョン賛同者イコール管理職組合と考えている旨告げ、山本秀雄が、管理職組合と小西俊一とは全く別である旨説明しても、これを受け付けず、「早く管理職組合を辞めるか解散するかしろ」と要求し、顛末書の提出を求めた。

取締役井上勝司は、同月一九日、山本秀雄を就業時間中に本社近くの喫茶店に呼び出し、小西俊一のことと管理職組合のことは別問題とできないとして管理職組合脱退を勧奨した。

井上勝司は、同月二二日、管理職組合幹事長山中雄平を訪ね、「管理職組合は認めることは出来ない。この管理職組合に参加している君の将来はない。」と告げて、脱会を慫慂した。

山根和之は、債権者木内創が新生ビジョンに対する署名活動に参加しているとの認識がなかったことから、同債権者に対して、従業員の新生ビジョンに対する署名及び管理職組合への参加をさせないように指示し、債権者木内創はその指示に従ったかのような回答をした。

専務取締役管理本部長藤井統典は、同月二七日、「管理職の皆様へ」と題し、「現在調査中の組織攪乱事件の全貌を明らかにし、例え管理職組合を隠れ蓑とする姑息な手段をとっても首謀者を処分する」旨の文書を管理職の自宅へ郵送し、各事業所へも配布した。

(一〇) 小西俊一は、同年五月一〇日には顧問を解職された。

そのため、同人は、同月一一日、「会社を憂える同志諸兄へ」と題し、8(ママ)0才にもなる小西甚右衛門社長は社内での愛人である羅民詔との悪口を隠すため、腐り切った会社の将来を憂い、申入書日本臓器の新生ビジョンを提出し、その回答を迫った小西俊一の顧問職を解いた。」などと書き、「組合社員諸君立ち上がれ!」と締めくくる文書を配布し、また、日本臓器を再生する会・小西俊一の名で、「最近、菅野専務、藤井専務、山根取締役が新生ビジョンに同意した社員を呼びつけ、解雇を脅し文句に、狂った経営に対する絶対服従を強要しております。」などと記載する文書を配布し、更に、同年六月一日にも、新生ビジョンは誹謗中傷の文書ではない等と記載した文書を配布している。そして、同年五月一二日には、福岡支店における債権者西村昭や新生ビジョン署名者の集まりに、同月一七日には、仙台支店における債権者垣田治彦や新生ビジョン署名者の集まりに、同月三一日には、名古屋支店における債権者木内創や新生ビジョン署名者の集まりに出席して、新生ビジョンの説明、債務者や代表取締役の批判、羅民詔の件に触れた話などをしている。

(一一) 債権者らに対する処分は、「争いがない事実及び明白な事実」欄に記載のとおりである。

管理職組合は、債務者に対し、団体交渉を申し入れ、債権者西村昭に対する処分等の撤回を求めたが、債務者がこれに応じないため、同月一四日及び一五日、ストライキを実施し、本社前に座り込みを行った。小西俊一は、これに呼応して、同月一四日及び一五日、富谷博文とともに債務者本社を訪れて株主名簿の閲覧を求めた。

管理職組合結成に参加した者は、同年七月八日の人事異動によって、企画部課長山本秀雄が病院担当チームリーダーに、神戸営業所長和田雅紀が大宮出張所長に、福岡支店営業課長川森寛治が病院担当チームリーダーに、いずれも降格となり、高柳公一は福岡支店から高知駐在に異動となった。また、高松支店長西山史生は同月二八日、熊本営業所長山中雄平は同月三〇日いずれも管理職組合を脱退した。その後、和田雅紀も同年八月一八日、管理職組合を脱退した。

2(一)  債務者は、債権者らは、小西社長をはじめ現経営陣を追い落としてその後に座ろうとする前記小西俊一の策動に加担した旨主張するところである。そして、債権者西村昭が、平成一〇年一〇月ころから、福岡支店の穴見智和に対し「会社がすごいことになる」「(平成一一年)六月ころとんでもない事態になる」などと話し、同年一月、福岡支店の高原幸三に対し、「六月の株主総会で俊一氏が社長になる」「株を持っている」「俊一氏が社長になった時に力を貸してくれ」などと述べたり、同年一月二八日、福岡支店の清水稲生に対し、大分事務所において、「六月の株主総会で新社長に俊一さんがなる」「株の過半数は押さえている」「勝馬に乗るように」などと述べた旨主張し、(証拠略)の記述はこれらに沿うものの、小西俊一が具体的に株主に働きかけるなど株主総会のための工作をしていたと窺わせる事情は何もなく、小西俊一が代表取締役になる可能性はなく、債務者の従業員の署名を集めたからといって、取締役になれるものではないのであるから、債権者西村昭がそのような発言をする根拠は何もなく、これらを採用することはできず、債権者らが、小西甚右衛門ほかの現経営陣を追い落とそうとする意図を持っていたとまでは認めることはできない。

(二)  債務者は、債権者らが、羅民詔と小西甚右衛門とが愛人関係にあるなどの中傷文書を閲覧させたり配布し、現経営陣を追い落とそうと謀った旨主張するところである。そして、債権者西村昭が、平成一一年一月三〇日、山田秀樹に対して「小西社長が羅民詔に騙されて翻弄されている」「羅民詔は中国で二人も人を殺している」「(ノイトロピンの)製造ノウハウを彼女が流している可能性がある」「羅民詔は日本臓器と中国の両方から金を搾取している」「困ったことに、社長と羅民詔は愛人関係にある」などと述べ、山田秀樹に対し、新生ビジョンと羅民詔に対する中傷文書を手渡したと主張し、債権者木内創も、同年一月初旬、名古屋支店の宮下孔彰に対し、「社長が羅民詔に誑かされており正常な判断ができなくなっている」「社長と羅本部長は愛人関係にある」「羅本部長は中国での利権を自分のものにして私腹を肥やすために画策を図った」などと述べ、同年二月初旬、宮下孔彰、江崎安彦、本谷和彦らをそれぞれ支店応接室に呼び、羅本部長に対する誹謗、中傷の文書を見せたなどと主張し、(証拠略)には、これに沿う記述がある。小西俊一が右主張のような事実を記載した書面を債務者に送付し、呉晃一郎にも同趣旨の書面を渡しているところからすれば、同趣旨の書面を債権者らに交付し、債権者らが、署名を求める際に、債務者の現状を変えるべき理由として、同趣旨を述べ、また、右のような書面を見せるなどした可能性は否定できない。しかしながら、債権者西村昭や債権者木内創が交付したり、閲覧させた文書は特定できていないし、債権者らが羅民詔と小西甚右衛門を誹謗中傷する文書を一般に配付したという事実は認められないのであり、小西甚右衛門を誹謗するような趣旨を述べ、また、その趣旨の書面を見せるなどしたとしても、これから直ちに小西甚右衛門ほかの現経営陣を追い落とそうとする意図を持っていたとまでは認めることはできない。ただ、小西俊一の債権者西村昭の事情聴取後の行動は、小西甚右衛門ほかの現経営陣との対決色を強め、債権者らも同人の説明会を開くなどこれと行動を共にした部分はあるが、これは、債権者らの署名活動が債務者に明らかになって、債務者においてこれをクーデターであると断定した対応をするようになった後のことであるうえ、誹謗文書の配付に債権者らがかかわった疎明はないから、右事情聴取後の行動をもって、それ以前の行為の意図を判断することはできない。

(三)  債務者は、債権者坂本美継が、同年四月、神戸営業所長和田雅紀に対し、新生ビジョンへの署名、押印を求め、同人は同債権者の求めに従ってこれに署名、押印を行ったと主張するところ、(証拠略)にはこれに沿う記述があるが、(証拠略)は、簡単なメモのような書面であり、署名は連判状にされていたのに右書面では、新生ビジョンの表面にしたとなっており、(証拠略)の松村眞二の記述とも矛盾し、これを採用することはできない。

3  右認定事実に基づき、懲戒解雇事由の有無を検討する。

(一) まず、債務者は、債権者らが、各支店の最高責任者である支店長として自ら会社の組織、秩序を保持すべき立場にあったにもかかわらず、意を通じて、小西甚右衛門社長をはじめとする現経営陣の失脚を謀った小西俊一の策動に積極的に加担し、部下従業員に対して小西俊一を支持する旨の署名、押印を求めるなど中心的役割を果たしたとし、その行動は、債務者の組織、秩序を紊乱し、正常な業務執行が阻害される状況を惹起したもので、就業規則第七九条三号、同一五号の懲戒解雇事由に該当すると主張する。

しかしながら、債権者らは、小西甚右衛門社長をはじめ経営営陣の失脚を謀った小西俊一の策動に積極的に加担したという点については、前述のように、債権者らにそこまでの意図があったとは認められないところであり、また、債権者らが署名活動をしたこと自体は明白であるものの(ただし、債権者坂本美継の関与は平成一一年四月以降)、これは、債務者の発展を願い、新生ビジョンがこれに沿うものと判断し、その実現を小西俊一に期待し、他面、顧問という地位に甘んじている、かつての上司でもある小西俊一に、その作成の新生ビジョンの実現に協力して、失地回復させるため、新生ビジョンに対する賛同者を募ったというに過ぎないもので、小西俊一に債務者内に代表取締役の長男としての然るべき地位を得させようとした程度の意図はあったかもしれないが、代表取締役小西甚右衛門や債務者現経営陣の失脚までもねらったものではないというべきである。それ故にこそ、署名を集めるについて、当初の段階では、特段極秘に進められたものではないし、穴見智和や山田秀樹など多くの者が協力したし、署名を拒否した者は殆どいなかったといえる。その署名が、現経営陣の失脚を狙うものであれば、一〇〇名にも及ぶ従業員が賛同するはずはないし、署名活動開始後四ケ月も露呈しないとは考えられない。

ただ、その署名活動が、結果的には、債務者の従業員に混乱を生じさせたとはいえるのであるが、多くの従業員が賛同した新生ビジョンそのものには、債務者自身一見建設的な意見であると認めるように、特段問題がなかったにもかかわらず、右混乱を生じた原因は、債務者が早期の段階で、これをクーデターと断定したことによるところが大であって、その責任をすべて債権者らに負わせることは酷というべきである。

また、債務者は、管理職組合結成の通知を受けるや、これを即造反者の隠れ蓑と決めつけ、これを認めない旨を従業員に告知し、債権者垣田治彦が管理職組合の肩書に同債権者の借上住宅の所在地を記載していたことを捉えてその所有者との賃貸借契約を解除したり、連判状の署名者の中でも管理職組合員を中心に降格などの処分をしており、管理職組合を嫌悪するところは否定しがたいものがあり、労働組合を結成したからこそ、署名活動に造反との評価を確定させたとの側面を否定できない。

そこで、以上を前提に、就業規則の懲戒解雇事由をみるに、その第七九条は懲戒解雇事由として一ないし一五号を定め、その三号に「勤務上のことに関し、虚偽の手続又は届出を行い職場秩序を乱し、又は乱すおそれのあるとき。」と、一五号に「その他前各号に準ずる行為があったとき。」と規定する。債務者は、債権者らの行為を、右三号、一五号に該当すると主張するが、三号は、「勤務上のことに関し、虚偽の手続又は届出」をした場合の規定であり、債権者らの行為がこれに直接該当するものではない。そこで、一五号該当性が問題となるが、就業規則第七八条の出勤停止に該当する事由として「越権専断の行為により、会社内の秩序をみだしたとき」等との項があり、債権者らの行為は、むしろこちらに近い。債権者らの署名活動によって、署名した者らは債務者に対する造反者という烙印を押されかねない状況となり、債務社(ママ)内の序が大きく乱されたことは否めないが、これは債務者が署名活動の実体を把握する以前にクーデターと断定したことによるところが大きく、これをすべて債権者らの責任とすることができないのは前述のとおりである。債務者は、債権者らを造反者として一律に扱うが、署名活動に対する関与の程度は、債権者それぞれによって異なり、債権者木内創の関与は少ないし、債権者坂本美継が関与したのは、松村眞二の記述からも、平成一一年四月以降であることが分かる。これらを総合すれば、債権者らの行為は、未だ、就業規則第七九条一五号に該当するとはいえないものというべきである。

(二) 次に、債務者は、債権者木内創に対する懲戒解雇として、同債権者が、支店長職務を放棄し会社の経営方針に反対して債務者の本社前で座り込むという支店長にあるまじき行為をしたことをあげる。

ところで、前述のように、債権者らは、平成一一年五月八日、管理職組合を結成し、平成一一年六月一四日、同月一五日とストライキを通告して、債権者木内創ほかにおいて、本社前で座り込みを行ったものであるところ、債務者は、右管理職組合結成は、債務者が、債権者らの会社組織破壊の企てについて調査を始めたため、債権者らがその事実を隠蔽するの(ママ)組織したものであるとか、隠れ蓑として利用するために組織したものであり、不正な動機に基づき結成された団体は認めることができないという立場をとっている。債務者がいう労働組合を隠れ蓑として利用するということは、労働組合の力で解雇等の処分を免れようとしていることを差(ママ)すと思われるが、立場を変えれば、不当な解雇等の処分を阻止するために労働組合を結成したということであって、解雇等の処分を免れようとして、労働組合を結成したからといって、これが実質的に労働組合の実体を持つものであれば、その目的を不当ということはできない。そして、その規約や運動方針を見る限り、本件管理職組合が労働組合としての実体を有しないとまではいえない。ただ、債権者らは、支店長という立場にあり、労働組合法二条但書一号の要件を充足するかどうか疑問が生じないではないが、本件管理職組合は、債務者における管理職によって組織されるものであり、支店長に組合員資格を与えることによって、労働組合として自主性を失わせるものではないので、本件管理職組合を労働組合と認めることは差し支えない。

してみれば、債権者木内創の座り込みは、管理職組合のストライキとして行われたものであるから、これを理由に懲戒処分をすることはできないというべきである。

4  次に、債務者は、債権者らが、各支店の最高責任者である支店長として重責をになう立場にあったにもかかわらず、前記のごとき債務者の組織、秩序を紊乱する行動に出たことは、就業規則第五三条四号の解雇事由(通常解雇)に該当すると主張するので、この点について検討するに、就業規則第五三条は、「社員が次の各号の一に該当する場合は予告して解雇する。但し、行政官庁の認定を受けた場合はこの限りではない。」とし、別紙就業規則抜粋のとおり一ないし四号を規定する。債務者は、債権者らに対する解雇通知書の中で、各債権者の行動が就業規則第五三条の解職事由に該当するとも記載しているが、右通知書は、懲戒解雇事由の通知書であって、予備的に第五三条の予告による通常解雇の意思表示がされたとは、形式上認めることができないし、本件仮処分手続における意思表示についても手続上問題があるが、その点を別にしても、前記認定の事実によれば、債権者らの署名活動は、債務者代表取締役ら経営陣の退陣を求めて始まったものではなく、債務者の建設的な改善を求めた程度のものにすぎなかったのに、債務者において、署名活動の実体を把握する以前にクーデターと断定したことによって、無用の混乱を来したといえる部分が大きく、債権者らばかりを責めることができないのに、しかも、債権者ら各自の関与の程度も正確に把握する前に、支店長という立場にあるというだけで解雇を決定していることからすれば、即時に解雇するだけの要件はないというべきであり、右通常解雇は解雇権の濫用として無効である。

二  争点2について

1  本件各解雇処分前、毎月二八日、債権者西村昭は月額六一万七七〇〇円、債権者木内創は月額五七万二九六〇円、債権者垣田治彦は月額四六万五一〇〇円、債権者坂本美継は月額六五万四一二六円の賃金を得ていたことは当事者間に争いがない。そして、(証拠略)によれば、債権者らは、いずれも右各賃金によって生計を維持していたもので、これを失えば困窮に陥ることが認められ、保全の必要を肯定できる。

2  債権者垣田治彦は、債務者借上げの住宅に居住していたが、家賃は一二万五〇〇〇円であるのに債権者垣田治彦は給料から月々三万六九〇〇円を天引きされているに過ぎなかったので、差額の八万八一〇〇円は債務者が負担していたのであるが、これは債務者が右八万八一〇〇円を住居手当として支給していたというべきところ、本件垣田解雇処分の結果、債権者垣田治彦は右住居手当相当分をも別に捻出して生活を維持せざるを得なくなっているとし、月額四六万五〇〇〇円の賃金に右八万八一〇〇円を加算した合計五五万三二〇〇円が債権者垣田治彦の従業員として支払を受けるべき地位である旨主張する。確かに、(証拠略)によれば、債務者は、債権者垣田治彦が債務者に対する管理職組合結成通知において管理職組合の肩書に同債権者の借上社宅所在地を記載していたことから、平成一一年五月一三日、「会社の借上社宅を会社とは関係のない事務所所在地として使用」したとして、その借上社宅の所有者との賃貸借契約を解除したため、債権者垣田治彦は、右住宅に居住を続けるために、現実に、従来債務者が負担していた八万八一〇〇円を支出せざるを得なくなったことを認めることができる。しかし、賃金たる住宅手当は就業規則などによる要件手続を充足して支給さるものであって、右の八万八一〇〇円は債務者が従前負担していたとはいえ、これをすなわち住宅手当であり、賃金であるということはできない。してみれば、債権者らが債務者の従業員たる地位にあるということから、右八万八一〇〇円の支給を受ける地位にあるとはいえない。

3  債権者らのその余の申立て部分については、保全の必要性を認めない。

三  よって、主文のとおり決定する。

(裁判官 松本哲泓)

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